rTMSについて
rTMSとは、Repetitive Transcranial Magnetic Stimulation(反復経頭蓋磁気刺激法)の略で、脳に直接アプローチしてシナプスの働きを整える革新的な治療方法です。これは「ニューロモデュレーション(Neuromodulation)」と呼ばれる治療法で、ニューロ(神経)とモデュレーション(調節)という言葉に表される通り、専用機器を用いて神経の機能を調整し、症状改善を目指す治療法になります。
原理としては、特殊なコイルに電流を流すことで磁場を発生させ、その磁場を変化させることで誘導電流(渦電流)を引き起こして、ピンポイントで脳の領域を刺激します。8の字型コイルをあらかじめ特定した頭部の位置にあてがい、一定の間隔で反復的な磁気刺激を脳へと送り込み、それを電気エネルギーに変えて脳をピンポイントで刺激する方法です。刺激の頻度やパターンを変化させることで様々な調整が可能で、うつ病や強迫性障害といった心の病だけでなく、慢性疼痛や神経疾患など、幅広い分野で研究が進んでいます。
日本ではうつ病治療として薬物療法と心理療法が主となっておりますが、第3の治療法として2019年よりTMS治療の適応が認められています。アメリカや欧州では既に2008年より治療適応となっているので、それから10年以上にわたって治療がすすめられ、症例検討や機器の進歩などの多くの改良が進んでいます。
適応疾患について
TMSでは刺激の頻度やパターンを変化させることで様々な頭部へのアプローチが可能となっております。うつ病や強迫性障害といった心の病だけでなく、近年ではCOVID-19罹患後の後遺症による思考力・認知の曇りや慢性疼痛、頭痛、脳梗塞後のリハビリなどの神経疾患にも適応が広がっております。
1)うつ病・うつ状態
2)双極性障害のうつ状態
3)強迫性障害
4)COCID-19罹患後の後遺症(思考力・認知の曇り)
5)脳梗塞後遺症
6)不安障害
7)睡眠障害
当院では担当医が診察し、期待できる効果や他の治療法も含めて、客観的にご説明させていただきます。
ご理解いただいたうえで、TMS治療を実施させていただくこともございますが、明らかに適応外の場合は他の治療法をお勧めします。
TMS治療のうつ病効果について
うつ病の原因について
近年の脳科学の様々な研究により、うつ病では脳の機能低下とともに思考や意欲を調整する背外側前頭前野(DLPFC)の血流量低下と機能低下が生じていることが分かってきました(画像参照)。また左側のDLPFC機能低下を補う形で、右DLPFCの活動性が増加していることも分かっています。
「背外側前頭前野(DLPFC)」の機能としては以下のものがあります。
•①判断、意志、興味をつかさどる
•②計画性をつかさどる
•③社会認知機能をつかさどる
•④扁桃体(へんとうたい)とのバランスを整える
扁桃体は、恐怖や不安、悲しみ、自己嫌悪などの感情をつかさどり、機能が低下すると、これらの感情が強くでます。
DLPFCは腹側被蓋野から腹側線条体を経て、腹内側前頭皮質(ventromedial prefrontal cortex:VMPFC)、背内側前頭皮質 (dorsomedial prefrontal cortex:DMPFC)などとともに脳内で広範な認知機能をつかさどるネットワークを形成しています。
うつ病に関する神経回路は大きく、前頭前野(DLPFC)を中心とする認知機能をつかさどる回路、扁桃体を中心とする情動伝達系回路、側坐核を中心とする報酬系回路の3つの回路が影響しており、それらの3つの回路が複雑に絡み合ってうつ病の病態を形成していると考えられています。近年では脳の左側の背外側前頭前野(DLPFC)の活動が低下し、逆に扁桃体が過剰に活発に反応する状態を、うつ病のメカニズムと考えています。
TMS治療では、左DLPFC領域を中心に磁気刺激を繰り返し行います。磁気は神経細胞を通じて、さらに深部にある感情をつかさどる「扁桃体」に二次的な刺激を与え、脳の活動を回復させることができると言われています。
うつ病のTMS治療について
抗うつ薬で治療効果がなかった患者さまにTMS治療をおこない有意な抗うつ効果を示した研究結果があります。抗うつ薬1種類に反応しない症例における薬物療法での寛解率は21%であるのに対し、TMSでは25%の寛解率が見られました。抗うつ薬3種類に反応しない症例では、薬物療法が7%であるのに対し、TMSでは18%の寛解率が見られました*。また、TMSによって寛解した約60%の患者は3ヶ月後も維持されていたという研究もあります。
参考文献)
*)Efficacy and safety of transcranial magnetic stimulation in the acute treatment of major depression: a multisite randomized controlled trial. O’Reardon JP, Solvason HB, Janicak PG, et al. Biol Psychiatry 2007: 62: 1208-16.
rTMS治療の刺激方法について
現在では2つの部位の刺激が行われています。
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左前頭前野に対する高頻度刺激
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右前頭前野に対する低頻度刺激
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一般的に行われているのは、左前頭前野を高頻度(5〜50Hz)で刺激する方法です。うつ病の方ではこの領域(背外側前頭前野)の脳血流や代謝が低下していることが報告されていますので、高頻度刺激を繰り返し行うことでこの領域の神経活動が活発になり、興奮性が高まり、うつ病の症状改善が得られると言われています。
一方で右側の前頭前野を低頻度(1Hz以下)で刺激すると、腹内側前頭前野という部分の過活動を抑えると言われています。うつ病の方ではこの部分の脳血流や代謝が増加していることが報告されており、この刺激により刺激部位の神経活動が低下し、興奮性が低下すると言われています。臨床症状としては、焦燥感や不安感、過度な緊張感などの症状が改善しやすくなると報告されています。
iTBSについて
rTMSの中で、より効果のある刺激が可能で、治療時間を短縮できるシータバースト(iTBS)があります。iTBSとは、Intermittent Theta Burst Stimulation(間欠的シーターバースト刺激法)の略で、rTMSと同様に8の字コイルを用いる治療法になります。rTMSが10Hz(1秒間に10回)の頻度で規則正しく刺激するのに対して、iTBSでは50Hz(1秒間に50回)の超高頻度刺激を不規則に3回行うことで、各刺激のインターバル(休憩)は8秒とり、3分20秒で600発の刺激で1回のセッションが完了します。これによりより高い効果が期待できて、治療時間をぐっと凝縮することができます。
従来のrTMSでは40分弱の時間がかかっていましたが、1回の治療セッションが10分前後と大幅に短縮することができます。
効果についても2018年 Lancetに掲載された大規模研究により、iTBSを行なった場合も37.5分のrTMSと同程度の効果が得られることが確認されています*)。
参考文献)
*)Effectiveness of theta burst versus high-frequency repetitive transcranial magnetic stimulation in patients with depression (THREE-D): a randomised non-inferiority trial. Daniel M Blumberger 1, Fidel Vila-Rodriguez et al. Lancet. 2018 Apr 28;391(10131):1683-1692.
TMS治療の長所について
TMSは、
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薬物療法に効果がない患者さまに効果が期待できる
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認知機能の改善、脳卒中後遺症のリハビリ効果が期待できる
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薬物療法と比較して副作用が少ない
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薬物療法と比較して再発率が低い
一方、TMS治療の短所としては、通院が必要である、自費治療である、まれに皮膚のピリピリ感、頭痛を感じる事がある、歴史が浅く分からない事も多いなどがあげられます。
こんな症状にTMS治療を
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うつ病でお薬を飲んでいるがなかなか治らない
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今のお薬を減らしたい
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抗うつ薬の副作用に悩まされている
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肝機能障害、腎機能障害などの持病がありお薬が飲めない
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薬がとにかくこわい。薬なしでなおしたい
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妊娠を考えている。授乳中である
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学生、受験生でお薬は使いたくない など
TMS治療の施術ができない患者さまとは
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重篤な心疾患のある方
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人工内耳・ペースメーカー埋め込みをされている方
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頭に金属が入っている方
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てんかんや頭蓋内病変の既往のある方 など
TMS治療の副作用について
ほとんどは治療時に頭皮に痛みを感じる程度で済むと言われます。薬物療法では内服したお薬が脳だけでなく全身をめぐるため、お薬ごとに様々な副作用をきたします。一方で、TMS治療では脳の局所を磁気で刺激するため、副作用は非常に少なく済みます。よく言われるTMSの副作用としては、磁気による局所の不快感、頭痛、頭皮の痛み、耳鳴りやめまいなどが出る場合がありますが、回数を重ねる事で軽減することが多いと言われています。また、ごく稀ではありますがけいれんなどの大きな副作用が出る場合もあります。
TMS治療の実際
これまでのTMS治療では1日1回約40分の施術を週5日行うのが標準プロトコールだったため、1回の施術にかなりの時間を要していました。当院では刺激頻度を改良したシータバースト機能搭載の最新TMS機器を採用しています。シータバースト搭載TMS機器ではこれまで1回40分かかっていた治療時間が約 8 分と短縮され、しかも同様の効果を得ています。TMS治療では週2回以上、トータル30~40回の施術をされることをお勧めします。
施術当日
心理検査や問診などを行い、施術可能な状態か確認します。
刺激部位、刺激強度の設定
TMSチェアに腰かけていただき、専用のキャップをかぶり、頭位を測定し、TMS刺激部位である背外側前頭前野の位置を決めます。次にテスト刺激を与え、右手の動きを見ます。動きの程度に合わせTMS刺激強度を決定します。
施術開始
頭が動かないよう首を固定します。その後は約 8 〜18 分程度の施術となります。個人差はありますが、初回~3回程度で効果を感じる方もいらっしゃいます。
安全性の確認と評価
TMS治療中は効果判定を含め、施行5回に1回程度の診察をお勧めしています。
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